Galaxy Formation and Evolution

銀河の形成と進化

宇宙は、いつどのように最初の星や銀河をかたちづくり、身の回りに満ちあふれる炭素や酸素などの元素を獲得してきたのでしょうか? 近年の Planck 衛星の宇宙マイクロ波背景放射の観測結果によれば、初代星や初代銀河が放つ紫外線が宇宙全体の水素ガスを電離させた宇宙の一大イベント「宇宙再電離」は、ビッグバン後6億年頃 (赤方偏移 z = 8) に生じたと推定されています。実際、Hubble 宇宙望遠鏡の探査によって、宇宙年齢6億年より過去の時代に100個をこえる若い銀河が発見されています。つまり、最初の天体が形成されたと考えられる時代を、私たち人類は目にしはじめているのです。

宇宙年齢にわたる銀河の形成・進化と「宇宙再電離」。Credit: NAOJ

にもかかわらず、私たちは宇宙再電離の時代から現在に至る宇宙のすべての歴史を明らかにすることができていません。それはなぜか。元来恒星は、分子雲とよばれる冷たく密度の高いガスや固形微粒子(ダスト)の雲でうまれます。こうしたガスは、うまれたばかりの若い恒星の光を吸収してしまいますから、可視光線による観測では検出できない銀河があることが容易に想像されます。しかし、吸収されたエネルギーがなくなるわけではありません。恒星からのエネルギーを吸収したガスやダストは 20-50 K 程度に暖められ (十分冷たいですが!)、今度は遠赤外線 (波長およそ 100 μm) で莫大なエネルギーを放出しはじめます。この遠赤外線が、宇宙膨張にともなってさらに長波長の電磁波となり (赤方偏移)、サブミリ波とよばれる電波となって地球に届くのです。

私たちは、こうしてはるばる過去の宇宙からやってくるサブミリ波を使って、銀河の形成や進化を観測的に研究しています。以下では、私たちが行っている研究のハイライトをご紹介します。

銀河団 MACS J0416-24 と重力レンズ効果によって細く引き伸ばされた銀河団のむこうの遠方銀河。このような重力レンズ効果によって、超遠方銀河の探査が行われている。(Credit: NASA)

宇宙最遠方の銀河探査:あらゆる天体形成の源流をさぐる

宇宙にうまれた最初の銀河はどのような姿をしているのだろう? どのような性質をしているのだろう? このような疑問は、誰しもが一度は出会う根本的な疑問ではないでしょうか。ビッグバンとして誕生した宇宙は、30〜40万歳までにいったん冷えて電気的に中性なガス(水素とヘリウム)で満たされます。しかし、星のような光る天体がないため、しばらくは暗黒の宇宙がひろがっています。宇宙が1億歳のころ、ようやくこの「暗黒時代」が終焉します。すなわち、初代星の誕生です。初代星、そしてそれらの集団である初代銀河は、強烈な紫外線を放射して周囲の中性ガスをみるみる電離し、ついには宇宙全体を電離し尽くしてしまうと考えられています。

現代の天文学では、こうした最初の天体形成が生じる時代は「宇宙再電離」の時代と呼ばれていて、最先端の研究が行われているフロンティアです。宇宙誕生後6億年頃に生じたとされる宇宙再電離期に、急激に天体の進化が進むとともに、私たちが普段目にする通常の物質、たとえば炭素や酸素や窒素といった元素(天文学では重元素と呼びます)が満ちあふれたと考えられています。

私たちの主戦場は、まさにこの宇宙再電離期にあります。私たちのチームは、星形成や星間物質、元素合成という観点から、こうした時代に生まれる若い銀河の探査、およびそれらの物理的性質をさぐる研究を行っています。

この時代を研究することのとくに面白い点は、宇宙で最初の天体がうまれ、ゆたかな物質世界が築かれていくまさにその過程が、望遠鏡というタイムマシン、そして物理学という道具を使って詳細に観察ができる点です。初代天体が形成される宇宙では、太陽のようなふつうの星はまだ一生を終えず、したがって恒星の内部で合成される重元素は宇宙空間になかなか供給されません。いつ、どのように銀河の内部で星が生まれ、星の生死によって重元素が満ちあふれ、ひいては私たちがふだん目にする宇宙が構築されていったのか。このことを理解することは、物理学のみならず、私たちの世界の成り立ちを理解するうえで避けては通れないことでしょう。私たちは、サブミリ波望遠鏡を用いた遠方銀河の詳細な撮像・分光観測を通じて、また理論研究者とも連携しながら、私たちが住む物質世界の根源をさぐる研究をしています。

宇宙誕生後6億年頃 (132億年前)、宇宙再電離期のまっただなかに発見された銀河のALMAとHubble宇宙望遠鏡の合成画像。赤い色はALMAがとらえた星間塵(ダスト)の放射、緑色が電離ガスが含む酸素原子の放射。青い色は、Hubble宇宙望遠鏡がとらえた若い星の光。星々の生死を経てつくられるはずの星間塵や酸素が、このような若い銀河に大量に見つかったことは驚きである。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA, Y. Tamura.

激動の銀河進化を目撃する

宇宙再電離の時代を経てうまれた銀河は、やがて激動の進化の時代をむかえます。近年の精密宇宙論で明らかになったのは、この宇宙が宇宙項 (Λ) の存在する冷たい暗黒物質 (cold dark matter, CDM) に支配されている点です。この “ΛCDM” と呼ばれる宇宙の枠組みは、銀河や超大質量ブラックホールが衝突・合体を繰り返して成長することを予言します。すなわち、天体は他の天体を取り込みながら質量を獲得するのです。こうした衝突・合体現象をベースにした激動の銀河進化は、およそ100億〜120億年前に頻繁に起こったと考えられています。衝突銀河では、ガスが急激に圧縮され爆発的な星形成活動 (スターバーストと呼びます) を誘起するとともに、内部の星をガスとダストの雲で覆い隠してしまいます。すると今度は、暖められたダストが遠赤外線で莫大なエネルギーを放射し始めます。この莫大なエネルギーを放射する遠赤外線は、宇宙膨張に伴って引き伸ばされ (赤方偏移して)、地球に届く頃にはサブミリ波として観測されるようになります。この莫大な遠赤外線放射と赤方偏移の関係によれば、赤方偏移が 10 にある超遠方の銀河でさえも観測できる可能性があります。

1990年代の初頭にサブミリ波で明るく輝く銀河の存在が予想され、1990年代後半になって世界で初めてサブミリ波のカメラが開発されると、実際にサブミリ波で輝く銀河「サブミリ波銀河」が数多く発見されるようになりました。サブミリ波観測によって遠方宇宙への「窓」が開かれた瞬間です。サブミリ波観測は、遠方の窓であるとともに、可視光線ではガスやダストに隠されて見えない太古の星形成活動の観測を可能にする重要なツールです。私たちは、こうしてはるばる過去の宇宙からやってくるサブミリ波を使って、銀河の形成や進化を観測的に研究しています。

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