分子雲形成の研究
星は例外なく(水素)分子雲の密度の高くなったところで生まれます。1970年に宇宙空間にある一酸化炭素分子(CO)が放射する波長2.6mmの輝線が検出されました。この検出を皮切りにCO輝線の観測が精力的に行われ、分子雲の分布・性質の理解が進んできました。また、多波長連携により、星形成の現場も明らかにされてきており、多くの理解が得られてきました。一方で分子雲自体がどのように形成されるのかということに関しては観測的な理解は遅れています。CO輝線が見ることのできる分子雲は水素分子形成後、水素分子の密度が数100cm^-3を超えたところです。低密度の分子雲はCO輝線では検出することができず、その分布、性質が明らかになっていません。また、低密度分子雲は密度の高い水素原子雲とも関連があるため、水素原子雲の分布・性質も合わせて理解をする必要があります。水素原子雲の観測はすでに多くの観測がなされ、全天にわたり、その分布や性質が明らかになっています(図1)。一方で、低密度分子雲をどのように検出するかということについてはまだまだ課題があります。CO輝線では検出できない低密度分子雲を探査する手法として、星間ダストと星間ガスは一定の割合で混ざり合っているため、星間ダストのデータから星間ガスの量を見積もる手法、ガンマ線放射の観測から星間ガスの量を見積もり手法などがあります。しかし、これらはガスを直接見ていないため、分子雲の物理情報を正確に求めることができません。そこで、我々はOH輝線に注目しました。OH輝線は近年の観測からCO輝線では見ることのできない低密度の分子雲を見ることができる可能性が議論されています。我々は臼田64m鏡を用いてOH輝線の観測を行い、分子雲形成の現場を捉え、分子雲形成の環境、空間スケール、形成の速度を明らかにしようとしています。
星間ガスは図2のように
1.密度 0.1-1cm^-3、温度 ~1000Kの暖かい水素原子雲(Warm Neutral Medium、WNM)の中で局所的に密度 10-100cm^-3、温度 ~100-200Kの冷たい水素原子雲(Cold Neutral Medium、CNM)が形成され、
2.CNM中で水素分子形成が起こり、水素分子雲の種ができる。
3.種が生長し、CO輝線で検出できるような立派な分子雲となる。
という進化・成長をします。水素分子形成も合わせて、低密度ガスから分子雲の種の形成、成長・進化を明らかにするべく研究を行っています。
図1 全天の水素原子雲の柱密度と視線速度の分布図。座標は銀河座標。北半球はドイツの100m鏡、南半球はオーストラリアの64m鏡で得られたものを組み合わせて作成されています。
図の中心が天の川銀河の中心方向。中央の明るく光っている帯が天の川銀河の水素原子雲、右下の速度が異なる成分は大小マゼラン雲とそれらをつなぐブリッジ成分の水素原子雲。
図2 星間ガスの進化のポンチ絵。WNMからCNM、CNM中で水素分子が形成され、分子雲へと進化する。